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岡山地方裁判所 昭和46年(む)12号 決定

被疑者 片山清志

決  定

(被疑者氏名略)

右の者に対する不動産侵奪被疑事件につき、昭和四六年一月九日岡山地方裁判所裁判官がなした勾留請求却下の裁判に対し、検察官から準抗告の申立があったので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原裁判を取消す。

理由

本件準抗告申立の趣意は、要するに原裁判が勾留の理由の存することを認めながら、事件が比較的古く、本件池沼の埋立に関し相談を受けた町当局において刑事事件とするまでの意図は有していなかつたこと、被疑者は警察からの電話による出頭要求に応じて取調を受けていること、被疑者の本件身柄の拘束は本件捜査の経緯、被疑者の取調状況等からしてむしろ別件の贈賄被疑事件の捜査に利用している疑いが存することなどを理由に勾留の必要なしとして勾留請求を却下したのに対し、本件不動産侵奪は国有財産である池沼を埋立ててほしいままに侵奪した重大な犯罪であること、任意出頭に応じているとしても不動産侵奪の犯意を否認している現段階では関係者との通謀による罪証隠滅を防止するため身柄確保の必要があること、またその故にこそ当初任意捜査を行なつていたものを強制捜査に踏切つたものであつて、別件捜査に利用する意図は存せず、別件と目される贈賄も本件不動産侵奪と密接に関連し合つていて、しかも両者の軽重を論ずることはできないものであるからいわゆる別件逮捕にはあたらないとして、勾留の必要は存するので原裁判の取消を求めるというにある。

そこで一件記録を検討してみるに、被疑者が本件不動産侵奪を犯したと疑うに足りる相当な理由の存することは右記録中に存する資料によつて一応明白であるが、本件池沼の埋立工事の経緯状況、殊に本件池沼を事実上管理する立場にあつた町当局と被疑者との接触交渉状況、埋立後被疑者が講じた措置等についてなお十分に関係者に対する取調を行なわなければ本件犯罪の成否、被疑者の責任の範囲、その地軽重等事実の真相が十分に解明されないと解せられるところ、記録中よりうかがえる被疑者の供述内容、被疑者と町当局その他元関係者との従前の接触交渉経緯、埋立てた土地を現に使用している会社における被疑者の地位等にかんがみれば、本件池沼を埋立てた外形事実についてはこれを否定しがたいとしても、前叙の取調未了の点については被疑者がなお関係者に働きかけて通謀のうえ罪証を隠滅する虞が多分に存すると言わねばならない。

更に勾留の必要の有無について検討するに、一件記録中よりうかがえるところによれば、被疑者は私の利益のために何ら正規の手続を経ることなくほしいままに約九五三平方米に及ぶ国有の池沼を侵奪しているのであつて、右池沼埋立後の被疑者の態度等も併せ考察するならば犯罪の性質態様は極めて悪質というほかなく、従つてなるほど右の如き池沼については関係行政機関の管理体制がルーズであり、これに相応して町当局が本件不動産侵奪を刑事事件とする意図を有しなかつたとしても、また被疑者にこれまで格別の前科前歴は存しないことやその経歴、従前の生活態度等を有利に斟酌しても、更には電話による出頭要求に応じて取調を受けているとしても身柄拘束の必要性は否定できない。

そして本件身柄の拘束を別件の贈賄の捜査に利用しているか否かについても、右記録中に存する資料によれば、本件不動産侵奪と別件の贈賄とは互いに関連し合う事実である可能性も存し、仮にしからざるとしても前叙のとおり本件不動産侵奪は悪質な事案であつて、それ自体で十分勾留の理由および必要が存し、別件の贈賄と比較してもこれを事案軽微とは必ずしも論断しえないものであるから、逮捕後の被疑者の取調状況が本件不動産侵奪の取調をほとんど行なうことなく、大部分を別件の贈賄の取調に費しているような場合ならば格別、本件では被疑者の供述によればその嫌いがなくもないとしても記録中に存する他の資料によれば右の如く認定するのはいささか早計でありそのほか本件身柄の拘束中に別件の贈賄の取調べが行なわれたとしてもそれが刑事訴訟法一九八条一項但書の趣旨に即して行われている限り、何らこれをもつて違法不当視することはできない以上本件身柄の拘束が別件の贈賄の捜査に利用されているとは断定し難いから、これを理由に身柄の拘束の必要を否定することもできない。

以上の次第で、被疑者がその年令、心身の状況、職種内容、家族構成等に関し特別の事情が存するため、本件身柄の拘束によつて他の場合に比し格別の不利益を被ると認むべき事由も存しない本件においては、結局のところ勾留の必要は存すると言うことができ、従つて本件準抗告は理由あるに帰するから、原裁判を取消すこととし刑事訴訟法四三二条、四二六条二項によつて主文のとおり決定する。

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